2026年夏はスーパーエルニーニョによる猛暑とナフサ不足のWパンチ?
はじめに:2026年夏、日本経済における2つのマクロ環境の変化
2026年現在、国内外の報道や気象機関において、今後の経済活動や日常生活に影響を与える可能性のある2つの事象が指摘されています。それが、日本付近への猛暑と多雨の影響が予測されている「スーパー・エルニーニョ現象」と、イラン関連紛争に起因する地政学的リスクに伴う「ナフサ(粗製ガソリン)不足」です。
日本の産業界や日々の暮らしは、原材料価格の変動や為替の動きなど、多くの変化への対応が必要な局面にあります。
一見すると、地球規模の気候変動と工業製品の原材料不足は異なる問題のように見えますが、これらが同時期に発生するリスク(ポリクライシス:複合リスク)の視点を持つと、農業、飲食、アパレル、建築、医療など、国内の多岐にわたる産業において、サプライチェーンの確認や資材管理の重要性が浮き彫りになります。
本記事では、公的なデータや信頼できる報道に基づき、現在判明している事実を整理し、各産業で進められている具体的な対策について客観的に解説します。
1. 科学的予測が示す「スーパー・エルニーニョ」の影響見通し

太平洋赤道域の水温監視を行っている米国海洋大気庁(NOAA)をはじめとする複数の国際気象機関は、2026年後半にかけて非常に強いエルニーニョ現象が発生する確率について言及しています。
気候科学において、熱帯太平洋の海面水温が平年より2℃以上高くなる状態は「スーパー・エルニーニョ(Very Strong El Niño)」に分類されます。最新の予測モデルではこの基準を超える可能性が指摘されており、海外の主要メディアでもその動向が取り上げられています。
気象庁が発表したエルニーニョ監視速報などの専門的な分析によると、今夏にエルニーニョ現象が発生する確率は70%となっています。
さらに今年は「負のPDO(太平洋十年規模振動)」の影響で日本付近の海水温自体が高く、これが地上の気温を底上げする要因として挙げられています。
大気の循環メカニズムとしては、インドネシア付近の対流活動が不活発になる影響で、日本付近では偏西風が北に蛇行しやすくなるという分析がなされています。この蛇行により、日本は太平洋高気圧に覆われやすくなり、特に北日本をはじめとする各地域において気温が平年より高くなる見通しです。同時に、梅雨の時期には前線に向かって湿った空気が流れ込みやすく、降水量が多くなる傾向が指摘されています(※②)。
歴史的な気候データや最新の気象予測を教訓とし、マクロな視点からリスク管理を捉え直す動きが各方面で進んでいます。
2. 石油化学製品の基礎原料「ナフサ不足」の現状
気候の変動予測と並び、日本国内の産業インフラに直接的な影響を及ぼしているのが、化学製品のベースとなるナフサの供給逼迫です。
ナフサ(粗製ガソリン)は、原油を精製する過程で抽出される炭化水素油であり、プラスチック、ポリエチレン、合成繊維、ゴム、接着剤、塗料など、現代社会で広く使われる石油化学製品の基礎原料です。
2026年現在、ナフサの需給が逼迫している背景には、イラン情勢の緊迫化に伴うホルムズ海峡などの海上物流への影響があります。
日本は原油や化学原料の多くを中東地域からの輸入に依存しているため、地政学的なリスクが物流コストの上昇や供給の遅延という形で国内に波及しやすい構造を持っています。
この動向について、イギリスの紙面『The Guardian』は2026年5月、日本国内におけるナフサ供給に関する記事を掲載しました(※①)。日本政府はこれに対し、「全体の供給量は確保されており、ただちに市民生活に深刻な支障が出る状況ではない。パニック的な買い占めなどは避けてほしい」との見解を示し、冷静な対応を呼びかけています。
一方で、産業の現場においては、原材料価格の上昇や一部資材の出荷制限、納期の長期化といった実務的な影響が報告されているのも事実です。国内のプラスチック関連企業の88%以上がナフサを起点とするサプライチェーンに依存しているため、この供給動向は多くの産業において具体的な課題となっています。
3. 各業界における現状の課題と事実関係
スーパー・エルニーニョによる気温・降水量の変化と、ナフサ不足による包装・産業資材の需給逼迫を受け、日本の各産業で発生している具体的な課題および報道内容は以下の通りです。
① 農業・食品・飲食業界
農林水産省のデータによると、日本のカロリーベースの食料自給率は38%前後で推移しています。エルニーニョがもたらす高温多湿の環境や資材不足は、農業分野において以下の影響を及ぼしています。
・高温障害と品質低下:
高温傾向は、お米の「白未熟粒(お米が白く濁る現象)」などの高温障害を引き起こし、一等米比率などの品質や収穫量に変動を与えます。また、夏野菜(トマトやキュウリなど)における着果不良の事例も確認されています。
・病害虫のリスク:
気温が高く湿度の高い環境は、植物の病気(稲のいもち病や野菜のうどんこ病など)や害虫が発生しやすい条件を形作ります。
・資材価格の上昇:
ハウス栽培用の農業用ビニール、マルチシート、肥料袋、育苗トレイなどはナフサ由来のプラスチック製品です。現場では資材価格の上昇に加え、農薬容器の供給制限などが重なり、生産コストの増大という課題が発生しています。
・飲食・流通への影響:
仕入れ価格やプラスチック包材(テイクアウト用容器やペットボトルなど)のコスト変動に対応するため、一部の食品メーカーではパッケージデザインの簡素化や白黒化といった実務的なコスト効率化対策が開始されています。
② アパレル・ファッション業界
アパレル市場で広く使用されているポリエステル、ナイロン、アクリルなどの機能性繊維は、ナフサを主原料とする合成繊維です。製造コストの上昇に加え、今夏の気温上昇の予測に伴い、各企業では夏物商品の展開期間の延長や、秋口の気温変化に応じた冬物重衣料の在庫管理スケジュールを柔軟に調整する取り組みが行われています。
③ 建築・住宅業界
建築分野において、断熱材(ウレタンフォームなど)、壁紙・床材用の接着剤、外壁や鉄骨を保護する塗料、給排水設備用の塩化ビニル管などの現場資材はナフサ由来の製品です。現在、これらの資材の一部でメーカーによる出荷制限や価格改定が行われており、工期管理における調整が必要となっています。また、夏季の現場における熱中症リスクに対して、適切な休憩の確保や空調服の導入といった安全管理体制の強化が進められています。
④ 医療・日用品業界
医療・介護現場においても、ナフサ不足を原因とする使い捨てプラスチック・ゴム製品の供給制限が報道されています。
・ニトリル製使い捨て手袋の供給遅延:
介護や医療の衛生管理に使用される「ニトリル製使い捨て手袋」はナフサ由来の合成ゴムが原料です。中東情勢の影響に伴い国内供給が停滞しており、読売新聞の報道(※③)によると、歯科医院や介護施設などの現場では発注品の未着やサイズ不足に対応するため、代替品としてラテックス(天然ゴム)手袋の利用や在庫の節約指示といった実務上の調整が行われています(※④)。

・調剤薬局での容器不足:
子ども用のシロップ薬を入れる「投薬瓶」や「軟膏容器」はプラスチック製品です。TBS『報道特集』の取材(※⑤)によると、原材料不足に伴い容器メーカーが製造ラインを制限しているため、薬局において容器の発注取り消しや入荷待ちが発生しており、患者への引き渡し業務において代替容器の確保などの対応が確認されています。
4. 「複合リスク(ポリクライシス)」の構造
重要なのは、これらが単一の事象ではなく、複数の要因が相互に作用し合っている構造(ポリクライシス:複合危機)であるという点です。
世界の気象変化(エルニーニョ)による食料・原材料の供給変動、地政学的要因(中東情勢)によるナフサの供給制限、そして輸入コストに影響を与える為替(円安)の動向など、異なる要因が同時に発生することで、従来の代替案が見つけにくくなる特徴があります。
この構造を客観的に分析することは、問題のボトルネックを特定し、企業や個人が従来の延長線上ではない持続可能な対策を導き出すための基盤となります。
5. 各経済主体における具体的な対応策
この夏以降の環境変化に対し、市場の混乱を防ぎつつ、各経済主体が進めている現実的なアクションプランは以下の通りです。
【事業者編】サプライチェーンの多角化と資源効率の向上
・発注スケジュールの前倒しと調達ルートの分散:
資材の納期遅延や出荷制限を見越し、数ヶ月先を見据えた計画的な発注と適正な在庫確保が行われています。また、代替素材の検討や国内調達への部分的な切り替えなど、調達先の多角化が進められています。
・脱化石燃料・環境調達へのシフト:
飲食業界におけるバイオマスプラスチックや紙製容器への移行、アパレル業界における天然繊維(綿・麻など)の再評価やリサイクル素材の活用など、化石燃料への依存度を下げる経営リスクヘッジの取り組みが進んでいます。
・既存設備のメンテナンス徹底:
新しい機械や資材の価格変動を考慮し、現在保有している設備や資材を長期利用するための体制が重要です。産業機械、農業用機器、店舗設備などの定期点検を徹底し、突発的な操業停止を防ぐ投資が行われています。
【生活者編】冷静な情報把握と適切な消費行動
・公式発表に基づく計画的な購買:
一部の製品について不足の報道がある場合でも、過度な買い溜めはサプライチェーンを停滞させる要因となります。政府や自治体、企業の公式発表を確認し、必要な分だけを計画的に購入する行動が求められます。
・リデュース(削減)と長期利用の実践:
マイバッグやマイボトルの利用による使い捨てプラスチックの削減は、ナフサの国内需要を抑え、医療等の重要分野に資源を回すことにつながります。また、衣服や日用品を修理しながら長く使うことは、物価高騰に対する効果的な生活防衛策となります。

6. まとめ
スーパー・エルニーニョ現象に伴う気温・降水量の変化予測と、産業を支えるナフサの供給逼迫は、2026年の日本社会における重要なマクロ環境の変化です。
一連の報道が示す通り、食品の袋、衣類の繊維、各種建材、医療器具にいたるまで、日常の多くの製品が石油化学製品に支えられています。サプライチェーンの課題を通じてこうした現状を捉え直すことは、今後のビジネスや社会のあり方を客観的に見つめる上での一つの視点となります。
事実ベースの正確な情報にアクセスし、特定の資源に過度に依存しすぎない、しなやかな適応を持ってビジネスモデルやライフスタイルを少しずつ調整していくことが、複合的なリスクに対応し、持続可能な社会インフラを維持するための確実な一歩となります。
【参考・引用元】
本ブログ記事は下記の参考元を参照、引用し、執筆者の見解を加えて執筆しています。
※①The Guardian(2026年5月19日) 「‘Remain calm’: Japan is gripped by fears of a naphtha shortage」
※②:Livedoor ニュース(2026年4月10日) 「気象予報士が解説する『夏のエルニーニョ』の影響。猛暑と大雨をもたらす大気循環の仕組み」(※1877年の世界的なスーパー・エルニーニョの被害研究データについては、下記Washington Postの報道に基づきます)
※③読売新聞(2026/4/24)「『ゴム手袋節約』で歯科の助手は1人、塗装作業用シンナーは『入荷あればラッキー』…ナフサ製品の品薄深刻」
※④m3.com 医療維新(2026/5/16)「『今どきラテックス手袋使えと』中東情勢で深刻化する医療物資不足」
※⑤TBSテレビ:報道特集(2026/5/9)「『薬はあっても容器が足りない』中東情勢の影響で薬局の軟膏容器などプラスチック製品が品薄に…」
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